マニュアル屋の随想

技術継承の範囲について

恐縮です。マニュアル屋でございます。

私の生業である「標準化・マニュアル化」というのは、そもそも何のためにすることでしょうか。

最近、私の周りの経営者の方にお話を伺っておりますと、
製造業では特に、熟練・ベテランな技術者の方が
お年を召していらっしゃり、いつ「熟練」技術が失われるかが不安。

リーダー格でバリバリ仕事をしていらっしゃる方が
妊娠で数か月後には辞められてしまう。
しかし、すぐに人は育たないかも知れない。

スーパーマンのような多能工の方が、
いきなり重病になられて、一気にパフォーマンスが落ちた。

という方も現にいらっしゃいます。
どこの会社にもキーパーソンはいらっしゃり、
会社の業績に対して、キーパーソンの占める割合が
大きい程、そのショックは計り知れないものになるでしょう。

お仕事というのは、忙しくて頼りになる人ほど、
より頼まれやすくなるようでして、
依頼された仕事を気を良く受けていくうちに
気が付くと自分しかできない、
知らない仕事が増えていたって職場も割と多いようです。

例えば、ベテラン作業者Aさんは、
気のいいリーダーでして、仕事熱心。
次工程の加工で使う材料カットが彼の主たる仕事です。

入社7年目で、仕事もできる方で、
お優しい方なので、他部署の方の
雑務を依頼されると、気を良く受けてこなしていきます。

材料や備品の発注から、資材の管理まで、
雑務とはいえ、一度仕事を引き受けて、
こなしてしまえると、
受け続けてしまうもののようで、
また、作業に慣れている方ほど、
自然と積み重なってしまうもののようでして、

それでも、Aさんは淡々とお仕事をこなしていき、
社内でも、さもAさんがやっているのが当然であるかのように
なっていき、そしてAさんも特に苦も無くこなしていくために、
それが日常になっていきます。

ところが、

ある日、Aさんが辞表を提出され、あと1か月で引継ぎ、
となったとき、Aさん以外の方は何をどのようにしているのかが
見えておらず、誰も仕事を引き継ぐことができず、
結局は、雑務に習熟していない他の作業者が被ることとなり、
生産性の低下を招いてしまう。

このような事態から、差し迫って対策を求めて来られる方が多くいらっしゃいます。

しかし、物事は優先順位があり、実はAさんの雑務ではなく
主要となる材料カットの技能の方が、他の作業者の作業効率を維持する上で
重要なファクターとなっており、主業の材料カットのノウハウが
何よりも重要であるのです。

このように、優秀な1人が主要な仕事の範囲を超えて、
多くの雑務を引き受けていたりする場合は、
特に焦点がぼやけがちになります。

特に辞表が出た後に、見えない雑務の分も噴出してきて
範囲が不明確になり、主業も漠然としてしまい、
結局、引き継ぐ内容が全て中途半端になってしまい、
技術の断絶を招いてしまう。

そのような事態に見舞われるケースは勿体ないと思います。

なので、技能承継を進める場合は、
突発的に費用にかられる場合等は特に
その期間でできる限りの精度と作業の区分、
本当にコアな継承すべき業務は何か。

その特定をすることがまず最初にやるべきこととなります。

御社には、Aさんはいらっしゃいますか?

もし、そうであり仕事の見える化や標準化が必要であるならば
期間と精度を評価しながら、絶対に継承すべき
技能・考え方を特定するステップを踏むことから
始めてみてはいかがでしょうか。

恐縮です。マニュアル屋でございました。

TIME2019.05.18  雑感,マニュアル作成

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